メダカと金魚
ここ数年、海に出かけていって死滅回遊魚の採集をし、持ち帰ってその魚を家で飼育しています。 海水魚の採集と飼育は中々面白いもので、今のところ飽きる気配は有りません。 考えてみると、水の国日本に生まれた所為か、子供の頃から魚を飼うことは、私だけではなく一般的にごく普通のことでした。 最も馴染みの深いのは金魚ということになるでしょうか。 およそ日本中で一度も金魚を飼ったことの無い人はいないでしょう。
私が子供の頃にも金魚はごく身近なものでした。 ガラス製の巾着型の金魚鉢は夏の風物詩でしたし我が家にも有りました。 紙の箱に入った金魚の餌も必ずどこかに置いてあったものです。 金魚鉢には白い小さな石を敷き、薄い鉛板で元を縛った金魚藻を一束入れて彩りをつけました。 そこに駄菓子屋で飼った和金や縁日で買った出目金を入れて育てたものです。 誰でも一度は経験が有るでしょう。 実際にはあの金魚鉢では長く飼育することは難しく、水替えや餌遣りに難しいものがありました。 少し油断すると酸欠になった金魚が水面から口を出してパクパクしだしたものでした。 私の祖父母の家では少し違った金魚の飼い方をしていました。 それは玄関脇に直径と深さが1mほどのコンクリート製の円筒で、これを玄関脇に置いて、水を貯めて金魚を放していたのでした。 金魚鉢というより池でしょうか。 水は屋根の雨樋から補給されました。 樋の口が金魚鉢に続いていて、雨が降ると水が雨どいから注がれるようになっていたのです。 深さが大分ありますから、金魚の他に睡蓮の鉢が沈めてあったりしました。 ここにいる金魚はとても良く太っていたと思います。 もう一つ思い出すのはアパートの前庭に造られていた池です。 1mx50cm位の手作りの池で深さは深いところで30cm位ではなかったでしょうか。 瓢箪型をしていたような気がします。 遊んでいたアパートの西の端の1階に住んでいた人の庭にありました。 ここも子供の遊び場の一部にしていました。 出入り自由でかつ昼間は住人がいませんでしたから、子供たちの良い遊び場でした。 どうやって遊ぶかというと、勿論、魚には釣りとなります。 皆で釣りをすることが決まると、まず最初に餌を調達します。 餌は勿論、ミミズです。 そこいらの地面をちょっと掘ればミミズはいくらでもいます。 小さくて細いミミズがベストです。 中にはドバミミズを掘り当てる子もいたりして・・・。 捕まえたミミズは適当な大きさに切って、持ってきた木綿糸の先に括り付けます。 反対側の糸の尻を持って、ミミズを池の中に放り込みます。 因みに針は使いません。 木の枝で竿を作る子もいました。 いずれにしてもミミズを餌にして金魚を釣ろうというのです。 暫くすると、金魚がミミズに食いつきます。 手応えを感じて糸をひくのですが、何せ針が付いていませんから、コツが要ります。 決して慌てず、ゆっくりと引き上げるのです。 殆どの場合、水面から少し上げたところで金魚は餌を吐き出し、水の中へポッチャンです。 こんな事をしても殆ど叱られた記憶がないのですが、実際は目上の子などがかなり怒られていたのかも知れません。
魚といえばもう一つ忘れていけないのはメダカです。 今はメダカが少なくなり、良く売られているのもヒメダカといわれ黄色っぽいものが殆どですが、私たちが子供の時に言ったメダカは正真正銘の鮒色のメダカでした。 これはペットショップで買うようなことはなく、自分達で採ってきました。 私はアパートに住んでいて家の周りには特にメダカが住むような小川はありませんでした。 でも、どこからかメダカを採ってきたのです。 学校の友達と連れ立って、歩きまたは自転車で行ける、比較的自動車が多く走っていた白いガードレールのある道路の脇の田んぼに流れる小川で採ってきました。 イメージは良く覚えているのですが、場所の地名は思い出せません。 膝くらいまでの小川に入り込んで、竹の柄の付いた網で小川の水を掬うと何匹かのメダカが採れました。 そんなに数を採るわけではなく、精々10匹程度を採って家に持ち帰りました。 採ってきたメダカはイチゴパックで育てました。 あの透明なケースに金魚藻を入れ、メダカを放しました。 餌は何をやったのか良く覚えていません。 でも、当時はメダカ専用の餌などはなかったと思います。 金魚の餌で代用していたのでしょうか。 暫くすると何匹かのお腹が大きくなって、金魚藻に卵を産みつけました。 やがて、その卵から稚魚が孵化します。 メダカを育てる時にはこの過程が楽しいのです。 稚魚の餌はゆで卵の黄味でした。 毎日母親に頼んでゆで卵を作ってもらい、黄身を水で溶いて水面から何滴かぽたぽたと落とします。 すると稚魚はそれを食べて徐々に大きくなっていきました。 このまま順調に成魚になって欲しかったのですが、ある日の朝、殆どの稚魚が死んでしまっていました。 皆、腹を上に向けその殆どの腹が裂けていました。 唖然としながら、その理由を考えてみました。 思い当たったのは前の晩のことでした。 夜寝る前に、蚊がいたので殺虫剤を使用したのですが、いつもならイチゴパップクに下敷きを乗せてから使っていました。 たまたまその夜はその下敷きがずれていたのです。 そのため殺虫剤が水面にかかって、稚魚を殺してしまったのです。 この事があってから以後、メダカを飼うことは止めてしまったように思います。 子供心にショックが大きかったのでしょう。
今の海水魚飼育のように色々な器具を使うわけでもなく、何の知識も無く育てた金魚やメダカ。 失敗することも多かったのですが、その子供のときの経験や楽しかった思い出が今の私に間違いなく繋がっているようです。
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